2008年8月28日木曜日

第2回 「水に映す」に触れて


















著者:丸山健二
出版社:文藝春秋
価格:1200円
初版:1978年1月30日
サイズ:ハードカバー
                                             丸山健二の小説に出くわしたのは、何年前だったろうか。。
どこかの古本市だったように記憶している。
ストイックな印象のタイトルに惹かれ、手にとった。

「水に映す」は、十二通りの短篇小説で構成されている。
すべて一人称で書かれていて、見てはいけない他人の日記
を読んでいるようだ。丸山健二は、シビアでやや極端な思考
の人であり、他人を信用していないのかもしれない。
しかし僕は非常に読みやすいのである。それは過剰に感情
移入されたウエットな語句を極力排除しているからかもしれ
ない。いやいや伊坂幸太郎もフェイバリットに挙げている彼の
‘熱め‘に計算された文章力に身をまかせているにすぎないのか。
十二のどの話も最終的にどこか置いてけぼりにされてしまうような
結末を迎える。しかし僕はそこに心地よい寂寥感を覚える。
多感な時期の夕方、訳もなく悲しくなったあの感覚である。
それは不安な恍惚とでもいおうか。。。

痛い話(けっしてイタイ話ではない)が全体を占めている。
耳に痛いし、もちろん、心に痛い。
「青色の深い帽子」や「バス停」は人道的には最悪のやるせない
語りの話だと思うし、「雪の走者」にいたっては主人公の田舎暮らし
に失敗した状況描写を丸山健二がこれでもかというくらいに皮肉な
現実でねじ伏せる。それを裏読みし始めるとコントに思え、主人公
の投げやりな後悔にニヤついてしまった。ああ僕も嫌な人間だなぁ・・・。
まるで丸山健二が描く皮肉たっぷりの人間そのものだ。
だから丸山健二が好きなのだ。気を抜くと、その欲と見栄の世界に
足を滑らせてしまう可能性を感じているのかもしれない。
まだ全ての丸山作品を読んだわけではない。
その内、自分そっくりの主人公にブツかることが今の僕の恐怖だ。