著者:辰巳ヨシヒロ
出版社:青林工藝舎
価格:1680円(税込み)
初版:2002年11月
サイズ:ソフトカバー
一人暮らしをしたことのある男性なら
辰巳ヨシヒロの描く夕景のような取り戻せない時間に
うつむき、そして、上を向きなおすであろう。
ハタチの頃、私は横浜の倒壊アパートでやさぐれ生活
を気取ることに成功していた。誰とも喋らない工場の
アルバイトを黙々とやり過ごし、帰りにスーパーで納豆
だけを買って白飯を炊く。一人で完結する・させる毎日。
そのまま口から音が発せられることなく、一日が終わる
ことはザラであった。寂しくないのが不思議だった。
それはやさぐれ生活を自分自身で肯定していたからだろう。
しかし、街に出ると不穏な先行きはむきだしになってヒリヒ
リと刺してくる。 東京というウカウカした集合体に出向いた
帰り道の電車などでは逃亡者のような気分で車窓にもたれ
窓の外を眺めるのであった。
ここに出てくる主人公たちも都会の電車で窓の向こうに
流れる線路沿いの家の明かりを見つめ続けているのだ
が、どうやら彼らはやさぐれ生活を肯定はしていないようだ。
しっかり寂しいと感じていて、自分の世界を構築してしまう。
ある者は嘘をつき、なけなしの人望を集める。
ある者は動物園の猿を恋人に見立て最後は求愛する。
ある者は出会った不思議ちゃんの存在を癒しと思い込む。
ある者はゴキブリたちに名前をつけ、愛でる・かばう。
実は私は読んでいて何度も泣きそうになっていた。
やっぱり同じ風景を自分も横浜でみていたんだと。
2008年11月29日土曜日
2008年11月4日火曜日
第4回「人生読本 友だち」に触れて
著者:河盛好蔵 ほか
出版社:河出書房新社
価格:680円(税込み)
初版:昭和54年10月15日
サイズ:ソフトカバー
古本市に行くと、いつも探してしまうのがこの「人生読本」シリーズ。
豪華な顔ぶれの執筆陣を迎えて、ワンテーマに沿った文章を編んである。
「ユーモア」「同居術」「ダンディズム」「旅」「仕事」「日記」「マンガ」など
個人的に興味深いテーマの巻などが存在する。(もちろん他にももっとある)
今回紹介させていただくのは、晩夏の古本市で買った「友だち」。
表紙をご覧いただくとわかる執筆陣のほかにも谷川俊太郎、赤塚不二夫、
串田孫一、小川国夫、小林秀雄、宮城まり子、長部日出雄、宇野千代、
三島由紀夫など総勢45名が友だちの紹介、定義、対談、思い出などを
記す。
中でも宇野千代の「親しい仲」の定義が眼にとまる。
彼女は、「親しいということと、なにもかもあけすけに見せるというの
は違う」と説く。親しき仲にも礼儀ありの「礼儀」につっこむ。
ニュアンス変わるといけないので少し引用。
~親しい仲であればあるだけ、あの佳き眺めをむげに見馴らし
果てんことを惜しむ気持があるべきだと思ふ。その佳きもの
を惜しむ気持が、ありのままを隠す気持、嘘吐きの頭に神宿る
結果につながってゐる、それが礼儀だと思ふ。
~中略~
親友といふものは相手の家の借金の高まで知り、夫婦といふもの
は妻のほくろの数まで知るのがほんたうだと思ひ込んでゐる意味
での親しさが、一体、私たちの心にどれだけの深い愛をよび起す
助けになるだらうか。礼儀とは、さういふ深い愛をもつた嘘吐きの
気持である。~ 原文ママ
要するに、相手の身の上をちっとも知らない「親友」というのもあるはずだ。
出版社:河出書房新社
価格:680円(税込み)
初版:昭和54年10月15日
サイズ:ソフトカバー
古本市に行くと、いつも探してしまうのがこの「人生読本」シリーズ。
豪華な顔ぶれの執筆陣を迎えて、ワンテーマに沿った文章を編んである。
「ユーモア」「同居術」「ダンディズム」「旅」「仕事」「日記」「マンガ」など
個人的に興味深いテーマの巻などが存在する。(もちろん他にももっとある)
今回紹介させていただくのは、晩夏の古本市で買った「友だち」。
表紙をご覧いただくとわかる執筆陣のほかにも谷川俊太郎、赤塚不二夫、
串田孫一、小川国夫、小林秀雄、宮城まり子、長部日出雄、宇野千代、
三島由紀夫など総勢45名が友だちの紹介、定義、対談、思い出などを
記す。
中でも宇野千代の「親しい仲」の定義が眼にとまる。
彼女は、「親しいということと、なにもかもあけすけに見せるというの
は違う」と説く。親しき仲にも礼儀ありの「礼儀」につっこむ。
ニュアンス変わるといけないので少し引用。
~親しい仲であればあるだけ、あの佳き眺めをむげに見馴らし
果てんことを惜しむ気持があるべきだと思ふ。その佳きもの
を惜しむ気持が、ありのままを隠す気持、嘘吐きの頭に神宿る
結果につながってゐる、それが礼儀だと思ふ。
~中略~
親友といふものは相手の家の借金の高まで知り、夫婦といふもの
は妻のほくろの数まで知るのがほんたうだと思ひ込んでゐる意味
での親しさが、一体、私たちの心にどれだけの深い愛をよび起す
助けになるだらうか。礼儀とは、さういふ深い愛をもつた嘘吐きの
気持である。~ 原文ママ
要するに、相手の身の上をちっとも知らない「親友」というのもあるはずだ。
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