2008年11月29日土曜日

第5回「大発見」に触れて

著者:辰巳ヨシヒロ
出版社:青林工藝舎
価格:1680円(税込み)
初版:2002年11月
サイズ:ソフトカバー

一人暮らしをしたことのある男性なら
辰巳ヨシヒロの描く夕景のような取り戻せない時間に
うつむき、そして、上を向きなおすであろう。

ハタチの頃、私は横浜の倒壊アパートでやさぐれ生活
を気取ることに成功していた。誰とも喋らない工場の
アルバイトを黙々とやり過ごし、帰りにスーパーで納豆
だけを買って白飯を炊く。一人で完結する・させる毎日。
そのまま口から音が発せられることなく、一日が終わる
ことはザラであった。寂しくないのが不思議だった。
それはやさぐれ生活を自分自身で肯定していたからだろう。
しかし、街に出ると不穏な先行きはむきだしになってヒリヒ
リと刺してくる。 東京というウカウカした集合体に出向いた
帰り道の電車などでは逃亡者のような気分で車窓にもたれ
窓の外を眺めるのであった。

ここに出てくる主人公たちも都会の電車で窓の向こうに
流れる線路沿いの家の明かりを見つめ続けているのだ
が、どうやら彼らはやさぐれ生活を肯定はしていないようだ。
しっかり寂しいと感じていて、自分の世界を構築してしまう。
ある者は嘘をつき、なけなしの人望を集める。
ある者は動物園の猿を恋人に見立て最後は求愛する。
ある者は出会った不思議ちゃんの存在を癒しと思い込む。
ある者はゴキブリたちに名前をつけ、愛でる・かばう。

実は私は読んでいて何度も泣きそうになっていた。
やっぱり同じ風景を自分も横浜でみていたんだと。