2009年7月4日土曜日

第12回「マイブック」に触れて

著者:田村隆一ほか
出版社:講談社
価格:980円
初版:1980年9月25日
サイズ:変型A5判

書評は、仮に紹介する本の内容をほとんど書かなくても、
その本を読んでみたい気持ちにさせればそれはもう
書評という任務を果たしているのではないだろうか?

この本はいわゆる書評本ではなく、著名作家人が影響
を受けた本を4冊選んでトーク形式に紹介したものである。
インタビュアーは女優の斎藤とも子で、当時、高校2年生。
そうそうたるメンツと読書経験について語っている。現在の
高校生タレントでこんなことができる人はまずいないだろう。
その予習ぶりと勤勉な姿勢に頭が下がる。NHK教育テレビ
の「若い広場」という番組内でのワンコーナーを書籍化した
ものである。

10代から20代前半に出会った印象深い本は思想の支柱
として残り、人生のバイブルとして記憶される。それが社会
に出て、一時、陳腐な思想に思えてしまうこともあるだろう。
しかし、ファーストインパクトで心に刻まれる出会いというのは
若くて知識や経験の浅い分、直感が最も発揮された選択では
ないだろうか。そういう出会いというのは、実は最終的に帰る
場所との出会いに値するのかもしれない。
そのことを示唆するようなことを中上健次もこの本の中で
語っている。彼の選んだ4冊の中に「星の王子さま」があった。
中上のイメージにはそぐわないこの本の選書理由はこうである。

「作家っていうのは自分と同年代の読者とか年上とか、あるいは
もっと若い大学生とか、読まれる範囲が決まっているわけでしょ。
一ぺん、純真無垢な読者、つまり子どもたちに向かってこっちが
純真無垢の、ほんとうの気持ちを伝えたいなあという、そういう
欲求があるんだよ。~中略~いくら中上が、難しいことをいったり、
偉そうにいってもね、本心というのはこういう・・・小説っていうのは
やっぱりこういうとこから出発するんだ、っていう感じをぼくはいい
たいんだな」

童話というのは、いちばん神話に近いし、人の想像力をいちばん
開放する部分のジャンルだと思う、とも語っている。他には、井上
ひさしが「ガリバー旅行記」、水上勉が「家なき児」、丸山健二が
「ロビンフッドの冒険」を影響を受けた本に挙げている。それぞれ
の幼少時の境遇の中で偶発的に出会ったこれらの本とのかけがえ
のない接触に感謝の言葉を残している。冒頭を飾る田村隆一は、
本との出会いは、職場やクラスで出会った気のあう友達みたいな
ものでその付き合い方も人間同士のつきあいとなんら変わりないと
説く。自分が成長するにつれ、本も成長し、最終的に人生を顧みた
時に、その本によって自分の過去の精神像というものを振り返る事
ができると。

彼らの言葉は血が通っており、充分に書評に値した。