2009年3月5日木曜日

第8回「20年目の検証 猪木ーアリ戦の真実」に触れて

著者:週刊ゴング編集部&小林和朋
出版社:日本スポーツ出版社
価格:1000円
初版:1996年7月10日
サイズ:ソフトカバー

先日、テレビ朝日の50周年特番で「アントニオ・猪木対モハメド・アリ」の
回顧録が放映されていた。当時私は4歳で、もちろん後追い人間である。
10年ほど前にこの本を買ったのだが、久しぶりに再読してみたくなった。
小学生の時の私は「尊敬する人物は?」と聞かれると、迷う事無く「アント
ニオ・猪木」と応えていた。当時は空前の第3次プロレスブームで将来は
プロレスラーになろうと心に決めていた。猪木はヒーローであり、八百長論
に真っ向から反論する信者であった。そして後に色々なカラクリを知るに
つれ、映画を観るような距離感で接するようになっていった。しかし、猪木
への尊敬は今も変わっていない。      それはなぜか?

体を張って、世間と対峙する姿を見せてくれたから

かもしれない。モハメド・アリは、時の世界ヘビー級王者。プロレスとは違い、
ボクシングは社会的にもスポーツとして認知されている競技であり、現在で
いえば誰であろう・・・、一昔前ならマイク・タイソンがいたのだが、今、お茶
の間 レベルまで名前の浸透しているマット界のスターがいないことに図らず
も気づく。 とにかく世界のトップスターに挑戦状を公式に送りつけたのが
日本のレスラー猪木。 もちろん最初は相手にされないのだが、猪木陣営
はしつこく食い下がる。アリ側も 高額なファイトマネーをふっかけて牽制する
が、猪木は実現の為、約18億円の借金を背負い交渉を続けた。この本には
試合実現に至るそれぞれの陣営の 思惑が細かに書き綴られている。この
試合の当事者たち~レフェリー、セコンド、 アナウンサー、興行主、師匠筋
レスラーらの証言もふまえながら。もはや映画のようなスケールとストーリー
がこの本に刻まれている。調印式、公開スパーリング、記者会見での度重
なる心理戦。先日、この時の猪木の顔をテレビで見たのだが、緊張とやる気
が同居した卒業式のようなハレの顔であった。結果的に勝負はドロー となり
当時は「世紀の大凡戦」「八百長」と叩かれた。猪木は引き分けに終わった
控え室で号泣したという。一世一代の真剣勝負だったのだ。
しかし、時を経てこの試合の内情が明るみになるにつれ、評価は裏返って
いった。アリ側の一方的な優勢ルール要求、結果的にアリの選手生命を奪
った猪木の攻撃によるダメージなどひたむきにこの夜にかけた猪木の評価
につながったのだ。 猪木は18億円を背負ったが、名声と経験を手にした。
無謀なものに無謀な方法で 無謀な公約のもと無謀な戦いをし、無責任な
世論と無言で戦った人間。世間と対峙 することがどんなにハードなものか、
36歳の私は少しだけ想像できるようになった。