出版社:講談社
価格:580円
価格:580円
初版:1969年6月12日
サイズ:函入りハードカバー
印象的な装丁の本である。昭和44年。
函の中身の表紙もご覧に入れたくて掲載しました。
ロマンティックとユーモアが同居している良い例。
まるで永遠の錯覚が続くかのような半エッセイ&
短編小説群が硬質な文体で収められている。
「幼年」の冒頭は、幼少期の就眠儀式から始まる。
就寝時、両方の掌を親指を外に出して汗ばむまで
固く握り締め、仰向けに寝た胸の上に置く。拳同士
は微妙な間隔を取り、左の拳は心音を聴いている。
両足は延ばしているが、右脚だけ曲げ、その足の
裏を左の膝こぞうにぴたりとつける。肝心なのは、
眠いのをそこでガマンすること。すぐに寝てしまって
は面白い夢を見られない。そのまんじりとした時間が
願望による空想やその1日の出来事を荒唐無稽に
夢想化させる。しかし実際は面白かった・美しかった・
甘かった・やさしかったというような印象のみしか記憶
していないことが多いのも事実で、再生不能の記憶
である「夢」は、前世の記憶に似ているとも言えないこと
もない。人は眠ることにより、一つの夜を眠り、一つの朝を目覚めることの繰り返しにより、なにか最も大事な、
最も本質的な部分を次第に忘れていくのではないかと
福永武彦はそこで思っている。昭和39年の夢想。
幼年を思うことは、記憶について考えることでもある。
当然この本にはいくつもの記憶考が展開されている。
そして記憶という曖昧で不思議な世界をいいあてるか
のような各章のタイトルが素晴らしかったので列記します。
「就眠儀式」
「初めに闇」
「薄明の世界」
「墓地の眺め」
「ヴァニラの匂」
「夏」
「屋根裏部屋」
「暗黒星雲」
「夜行列車」
記憶の最深には、いつも沈黙の自分があると思っている。
平成21年の夢想。