2009年8月1日土曜日

第13回「古レールの駅 デザイン図鑑」に触れて


著者:岸本章
出版社:鹿島出版会
価格:2940円
初版:2009年6月23日
サイズ:182mm×182mm

これは究極にフェティッシュな写真集であろう。
駅の写真集であるが、外観や改札などは殆ど掲載されていない。
これは「駅のホームの屋根の裏」ばかりを収集した写真集である。
この風景は、電車に乗ったことがある人なら誰でも記憶の片隅
に貼り付いているであろう。階段を昇ってホームに出た時に見える
あの屋根風景。電車の時刻を見る時に目に入るあの屋根風景。
ベンチに座ると映る反対ホームの屋根風景 etc・・・。

記憶の奥にある風景というのは、日常の風景なのに普段忘れている
事柄なのでそれが何かのきっかけで蘇ったとき、そのときの自分の
心理状態や状況を一気に思い出すことが多い。駅は移動の出入口
なのでこの写真集を見ると、旅行の出発時の爽快な気分や、出勤
ラッシュの憂鬱な朝や、遊びつかれた帰りのホームなどを思い出す。
個人的には都会の屋根風景は、なぜか憂鬱な思い出をつれてくる。
逆に田舎の屋根風景は、哀しくもないのに心地よいせつなさがついて
くる。田舎駅の乗り換えの待ち時間は、安心をともなった非日常だから
かもしれない。

これらの屋根は<上家>と呼ぶそうである。そしてその素材は、古い
レールを再利用したもので構成されている。しかし昭和40年を境にその
製法は駅のバリアフリー化などにより減少の一途を辿っているとのこと。
なんとわがJR京都駅の東海道線の上家は、貴重な初期構造の造りなの
だそうだ。現存する最も古い上家はJR横須賀線の横須賀駅で、途中の
関東大震災などのトラブルもあり確定できない部分もあるが、明治22年
の刻印が残されているという。直線にのびる上家がある一方で、優雅な
カーブを描いてそびえたつ上家の様は、これこそ文明の証といえるだろう。