2009年12月31日木曜日

第18回「日々の泡立ち 真説RCサクセション」に触れて

著者:渋谷陽一(聞き手)
出版社:ロッキング・オン
価格:1200円
初版:1991年2月
サイズ:ハードカバー

筑紫哲也さんが亡くなった時、その時はまだ闘病中だった忌野清志郎の事
を真っ先に思った。(清志郎はショックだろうな・・・・)と思わずにはいられな
かった。復活ツアーを行った際、おなじくガンと闘っていた筑紫さんを舞台に
登場させ、筑紫さんが前口上を述べるという演出がなされたらしい。人から
聞いた話だ。わが町・京都でも復活公演は開催された。僕はそのことは知っ
ていたが、復活した清志郎の元気ぶりを各メディアで見て安心しきって行か
なかった。その日も筑紫さんは登場したらしい。

以前、僕の身近にもガンと闘った人がいた。その人を病院に見舞う毎日の
中で風邪をひいた僕はネガティヴな気分で目が覚め、身体のダルさからくる
憂鬱はあらゆるヤル気をそいでいった。その朝は気分が滅入る一方だった。
その時、入院しているその人のことをなぜか思い出した。治る見込みのある
風邪をひいたぐらいでこんなにネガティヴな気分になるのに、ガンが再発し、
抗がん剤を打ち、身体の痛みをこらえ、毎朝目が覚めたら病院のベッドの天
井が現れるその人の心情は想像するに堪えなかった。

清志郎のガンが再発したという報が流れた。それから僕は清志郎の朝を
想像することが多くなった。毎朝パソコンを立ち上げてヤフーのトップニュース
を見るのに少し勇気がいった。ラジオから不自然なタイミングで清志郎の曲
が流れてくることを恐れた。しばらくしてその習慣をようやく忘れそうになった
頃、TVをつけたらそこに悲報が流れた。

復活後の清志郎のメディアでの言葉に僕は戸惑った。「愛」「世界平和」「夢
を忘れずに」。最初に彼の口からその発言を聞いた時、彼特有のギャグだ
と思った。歌詞をみてもわかる通り、人一倍言葉が持つイメージに敏感な人
だったと思うし、直接的な言葉は照れもあいまってむしろ茶化す立場の人だ
と思っていた。この「日々の泡立ち」はRCサクセション20年の歴史を忌野
清志郎・仲井戸麗市、小林和生が渋谷陽一のナビゲートの下、ポツポツと
答えたインタビューである。そこでの清志郎は、一番素っ気無い。受け答え
は、「うん」「そうそう」の連発で完全に他人事である。ここには正しく不真面
目なミュージシャンが記録されていて、真剣なのかどうなのか、真意をはぐ
らかされ続ける渋谷陽一が滑稽にうつるほどだ。

後年の何もいとわないメッセージは、心からの全快を何よりも忌野清志郎
自身が強く願った道程でついに出てきた言葉ではないかと想像する。