出版社:ビレッジプレス
価格:1470円
初版:2001年5月15日
サイズ:B6判
先日、友部正人さんご夫妻に叱られる夢を見た。友部さんとしばらく
何回か見た。思えば、初期のガケ書房のまだ機材もロクになかった
時代にライブしていただいたことは大きい出来事だった。高校生の頃から聞いていた人にお願いして、その人が目の前にいて、自分の
店で歌いはじめる。初めてお話したとき、友部さんは緊張する僕のおぼつかない話を静かに聞いてくれて「行ってみたい」と言ってくだ
さった。それは大きな一言だった。そこでガケ書房の一つの方向性が定まったといっても過言ではない。なぜかそれから有名な方と接
しても緊張することがなくなった。友部さんが魔法を解いてくれたと思っている。
久しぶりに友部さんご夫妻にあった時、夢の話をしたら優しい笑い
声でおちょくってくれた。奥さんのユミさんは、あけっぴろげな方で
最初に電話でお話させていただいた時、電話口の隣に友部さんがいたにも関わらず、ご自身の家庭の内情を僕に話した。僕も負けじ
と内情を話した。そして、ユミさんのナイーブな心の先にあるあけっぴろげに気づいた。
友部さんの文章は、詩的な比喩と日常の固有名詞が絶妙に混在し
ていて、外国文学の匂いがする。サリンジャーやジム・キャロル、ア
ラン・シリトーを読んでいるかのような感覚を覚える。「ちんちくりん」
は22歳から27歳までのエッセイ集で、今の静かな旅人然とした友部
さんしか知らない人は読まなければならない本だと思う。谷川俊太郎
との対談で投げやり気味にどこにも属さないような事ばかり言う友部さ
んの発言を僕はニヤニヤしたり、真顔になったりしながら読んだ。その
時の友部さんは自分のことを「俺」と言っていて、道路に石で落書きし
たり、卵にコショーを突っ込んだものをテレビの野外ショーに投げつけ
たり、暴走族とはしゃぎまわったり、交番に火をつけたりして最終的に
は鑑別所に入れられた過去を告白している。そして、自分以外のすべ
てのものに対抗できるようなおかしな声の発声法を発明したいと話す。
この本になる原稿をあちこち寄稿している最中に友部さんはニューヨー
クで少し暮らしている。現在も友部さんはニューヨークで暮らしたりする
が、当時と今とでは、ボロ雑巾のようなヒッチハイカーと温かい部屋があ
るニューヨークの住人という違いがある。友部さんがそこに至るのには
10数年の歳月があり、それは<暮らし>を手に入れたということだろう。
この本になる原稿をあちこち寄稿している最中に友部さんはユミさんと
出逢っている。
先日、友部さんは60歳になった。